とある山荘のベッド位置tier表
※ちなみにtierって何なのかよくわかってません。
はじめに
その山荘の寝室は、一部屋十人を定員とする個室である。
ドアを開けて中に入ると、そこには小さな廊下があり、左右にはベッドが奥に向かって二つずつ……合計4つ並んでいる。
行き止まりには木の板が上に置かれたストーブがある。故郷ではあまり見ることもないこの地域特有の「雪国の暖房器具」に、厳冬期にはきっとこの建物も雪に包まれるのだろうと思いを馳せる。
ストーブの向こうには横に並んだ窓があり、ここで顔を上げるとそれは3段に連なっている。天井は入口の方が高くなっている斜めの構造で奥の窓に向かうほど低くなる。首が痛くなるほどに真上を見ればそこには天井の斜め梁に備え付けられた扇風機がある。どうもエアコンはないらしい。必要ない、ということなのだろう。
見上げる最中に目に入るのは、左右に並んだ三段ベッドだ。最初に視界に入った左右4つのベッドが、三層に連なっているのだ。この部屋の最も特異な点であり、……そして最も存在感のある構造かもしれない。それは市販品が設置、配置されているというわけではなく、建物と一体となっており、いわゆる備え付けのものであろうと思われる。三段目などはかなり高い位置にあり、それぞれの階で奥行き方向に並んだ二つのベッドは棚で仕切られている。そして、棚の横の面に当たる位置に(つまりは、廊下に面しているところだ)木製のはしごがある。きっと、二段目や三段目へはこれで上るのだろう。
棚は三層を貫いているようで、一番上の部分はほとんど天井につきそうな具合である。なお、三段目は他の2段よりも棚の段数が多いようだ。
とはいえ、それでも部屋の奥の方は天井が低くなっていることもあり、三段目であっても人によっては頭を打つかもしれない。
かくして、ベッド四つ分と廊下を合わせた程度の面積しかないこの部屋で、私たち10人の共同生活が始まったのであったーー
問題
さて、ここで問題だ。
あなたは、どのベッドの領有を主張すべきであろうか?
もしかすると、とても低い可能性ではあるが、これから「こんな山荘」に泊まる可能性のある読者諸君のために、ヒントとして私の一意見を述べておこうと思う。
なお、定型文だが書き加えておこう。"この記事はあくまで個人の意見であり、最終的には自己責任の下で各自で判断してください。"
なお、以下については、左右は対称性ゆえに省略してまとめて表記している。
S
・手前三段目
手前三段目はいわば高層マンションの最上階である。
この物件の強みは、なんといってもその広さにある。いや、広さはどこのベッドも一緒なんだけど、そうじゃなくて。
山荘個室最大を誇る、高さ……
「天井が高いっていいわねー」
昔見かけた何かのCMで言われていた通りである。まあたぶんこんなに斜めっている天井も珍しいだろうが。きっとこういうのは雪除けのためなんだろうな。致し方無し。
この山荘のベッドにおいて、高さはスペースだけではない別の意味をも持つ。それは、棚の段数だ。これは後述する三段目奥側にも言えることだが、三段目はほかの二段よりも高く、それ故に棚の段数が多いのである!もっとも、1、2段目でも三段もあれば十分だとは思うのだが……千畳一畳を知れ。
しかし、高層ビルは見晴らしはよい代わりに、上層階へ行くのにはかなり垂直方向の移動の手間や時間がかかるという問題点がある。だからこそ、高層建築物にはエレベーターやエスカレーターがつきものだ。では、ここで想像してみてほしい。
もしも、タワーマンションにエレベーターがなかったらどうだろうか?
はじめに、で描写した通りこの山荘で鉛直方向の移動手段は梯子のみである。クーラーだけでなくエレベーター・リフトもなく、ただ重力だけが無慈悲にこの空間を支配している……
休息をとるべく自室に帰りたいだけなのに、梯子を延々と上って最後には飛び移るようにベッドに転がり込む……そのような労力を、毎回強いられるのはいかなる苦痛だろうか。
したがって、立地のためにこの三段目はS+を逃してSとしておいた。ちなみに若いころはそんなこと意にも介さずS+相当であった。年取ったもんだ。あと、立ち上がっても頭をぶつけないので人を呼びやすい。立地は悪いから来る人は多くはないが。
ちなみに、夏季限定で扇風機の恩恵をフルで浴びられるためにS+に昇格する。
・手前二段目
これは人によって意見が分かれるかもしれない。手前二段目の強みは、「バランス」である。
バランスとは何かと言えば、立地と静謐さのバランスである。
古くよりこう謡われてきた。
一段目は地廊の喧騒に隣接し、その振動を直に感じ、人押し寄せること度々なり。
落書「山荘寝台番付及ビ寝台争奪戦ノ指南について」より
三段目は孤高の地にして人訪わず、ただ斜に構える天井を見上ぐのみ。或いはそこに至る道険しく、下界に降りること難し。
二段目は屯する群衆を敬して遠ざけつつ、而して下りやすければ廊下、果ては部屋の外の世界へも通ずる。これ、中庸の利なり。
この伝承を見ればもう解説は不要であろう。
やっぱ中庸っすわあ……
S-
・奥側三段目
三段目であるがゆえに天井は高いが、さりとて前述の斜め天井のために手前側に比べるとやはり狭い。
ただ、(奥側のすべてに言えることではあるが)冬場はストーブがある側に近いのであたたかいかもしれない。後述の除雪車の明かりが気にならないのは奥側三兄弟の中ではメリットといえるかもしれない。
あと、気休め程度だけどちょっとだけ高みの見物ができるかなあ?
A+
・奥側二段目
奥側。ここの良い点は、ストーブの上であるために暖かい空気が来るかもしれない点。
しかし、世の中良いことばかりではない。奥側はすなわち窓の近く。たぶん雪国だし二重窓ではあるのだろうが、それでも壁際(外気と壁一枚で接している)はやはり寒そうである。冬場は何となく手前側のベッドがいいなあと私は思わんでもない。
そして、冬場に限っては奥側で注意すべきことがもう一つある。
それは、除雪車の巡回である!! なんと、この山荘は放っておけば雪に埋もれるのだろうか、夜な夜な除雪車が巡回しているのである。私はかつてこの「山荘」に泊まった時、二段目だったか一段目だったか覚えていないが窓の外に除雪車の明かりを見た覚えがある。人によってはその光が気になって眠れないかもしれない……そうさな、例えばこんな風に。
眠れなくて、窓の外を見た。
とある滞在者の手記より
何も聞こえない消灯時間の後。音はしないけれど、窓の外ではしんしんと雪が降っている。少しずつ、積もっていく。この雪がすべてを消していく……
無音が、不意に怖くなった。音がないからこそ、静かに落ちていくその雪が、現実感を失わせしめて、雪に閉ざされたこの山荘が、いや……消灯時間の闇の中で隔絶されたこの部屋が、もっと言えばこの沈黙の中で私のいるこのベッドだけが世界から切り離されたようで……私はそんな妄想に囚われ。慌てて、布団に潜り込む。
私たちが「外の世界」から通ってきた道筋も、バスの轍も、降りて山荘に入った私たちの足跡も、降り続く雪は圧倒的な時間ですべてを埋め尽くし、一切の痕跡はやがて消えゆくのだろう。
「砂絵みたいだ……」
ぼんやりとそんなことを考えながら、眠れずにいた私は、俄かに窓の外に光を見つけた。
「なに……あれ?」
<つづく>
私はそんなわけで別に除雪車が窓の外を走り回っていても気にならなかったが、チラチラ視界の端に映る機械の光が気になるという人は冬場は奥側は避けた方がいいかもしれない。ちなみに三段目は高いので多分視界には入らない。
A
・奥側一段目
好アクセス。ただし、それゆえに他の居住者に蹂躙されやすい。私も半年前の山荘宿泊の際にはここに押し込められたことがある。
ただ、二段目三段目と違い気軽に外へ出ていけること、梯子を上ったり飛び降りたりする必要がないので安全に出入りできるというメリットもある。慎重派の君はここを希望してみてはどうかな?
ちなみに夏場は扇風機の位置から最も遠いのでその点は覚悟しておくように。
逆に、冬場はストーブの近くなので手袋やタオルを干したりするのに非常にいい立地となる。ただ、万が一ストーブが燃えたり爆発した時のリスクは一番高いともいえる。
そういえばさっき言い忘れたけど、二段目、一段目の共通したメリットとして、洗濯物を干しやすいというものがある。これは、大抵二段目の柵の棒に巻き付ける形で物干し竿代わりのロープが渡されるため、三段目の人は干したいものがあると一度下に降りねばならぬという問題があるためである。奇妙にも最上階同士を結ぶロープの配置を選んだ場合はこの限りではない。ましてや二段目と三段目に斜めに渡すとかはさすがにありえんって。
なお、一段目のベッドはそもそも手すりないからね。
その他
手前一段目? あそこは荷物置き場とか余った布団を置くスペースにするから使えないよ。
結論
おわかりいただけただろうか……?
さて、ここまで読んできた諸君は気づいただろうか。
なんと、実はランクがSとAしかないことを。
そう、つまりこの事実が示すこと……それは。
なんのかんのいったけれど、私は正直どこのベッドだろうがこの「山荘」が大好きなのである。
すなわち、正直どこでもいいのである!!
結局どこがいいのか
一行前のちゃぶ台返しの叫びはさておき、以上、合計5か所のベッドを見てきたわけだが、結局この山荘を訪れた人はどういう選択をすべきなのだろうか?すなわち、かの旅人は、果たしていずれのベッドの位置を希望すべきなのか?
私の主観的な好みを脇に置き、あくまでも客観的な批評に徹して助言をするならば答えはこうである。
「どうせ10人もいる中でじゃんけんで勝って希望が通ることなんてほぼないんだから、悩むだけ無駄。普通に山荘の日々を楽しもうぜ!」
2026/1/4 未明 最終編集者:もっくる・ケレンミーナイ





ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません